千鳥ヶ淵の桜

東京都の花は「染井吉野」で、桜をシンボル花とするだけに、有名な花見の場所も多い。
なかでも千鳥ヶ淵は、堀を埋めるようにして咲くソメイヨシノが、
水辺と相性のいいサクラだけによく映え、東京の中心を美しく艶やかに彩る。

東京都民として20数年間を暮したものの、花見の時期に千鳥ヶ淵を訪れたことはなく、
ニュースに流れる映像や写真で見るばかりだった。
大勢の花見客で混雑するところへ、わざわざ出かけていくのが嫌だったというのがある。

そうして神奈川県民となって縁のないまま過ごしてきたが、たまたま丸の内に出かける用事ができ、
それじゃあついでに千鳥ヶ淵のさくらを見てこようと思った。
地下鉄を半蔵門駅で下車し、お堀に向かって歩く。



皇居西側の千鳥ヶ淵緑道(700mに260本の桜)には、平日にもかかわらず花見客がぞろぞろと行き交っていた。
天気は花見日和で、風もなく穏やかに晴れあがり、空は雲ひとつない青空。
すれ違う人たちが口々に、今日は最高の花見日和だね〜と言い合うのが聞こえてくる。

    
千鳥ヶ淵緑道を歩く花見客                         ボート乗り場は順番待ちの長い行列

道端に行列ができているのを何だろうと思ったら、ボートに乗ろうとする人たちが順番待ちをしている列だった。
そうか〜、お堀にせりだして咲くサクラ、それを愛でつつ漕ぐボート、花びらが散り始めたいまがいちばん絵になるなぁ〜
などと思いながらボート乗り場のデッキに立ってみた。

ここからは、千鳥ヶ淵定番のお花見光景が眺められる。
堀には何艘ものボートが浮かび、いかにも春らしいのんびりとした風情で、おそらく昔も今も変わらないのではと思う。

いまやフル回転のボートは、船着場に戻ってくるやいなや休む暇なく次々と人が乗り込み、水面へと押し出されてゆく。

  

それにしても、なんとゴージャスなさくら!
堀に植わったソメイヨシノは水辺に手を伸ばすかのように枝を広げ、
その枝先にあふれるほどたくさんの花を咲かせ、枝についた花を重たそうにして水辺に垂れている。
薄紅色の花が青空に美しく映え、また幾重にもなった花の層は、まるで雪が積もっているかのようでもある。
豪華絢爛の花景色!




緑道を歩きながら、ところどころ堀を覗きこんではシャッターを切る。

      

ハッピーアワーを満喫しているカップルが目にとまった。 彼女の金髪が春の陽光にキラキラ輝いて、素敵に映る。
仲睦まじい二人の様子に、ファインダーを覗きながら思わず笑みがこぼれた。
もし観光で来ているのだとしたら、にっぽんの桜の春が、なによりのおみやげとなったに違いない。



                                 



石垣をつたって流れるように咲く桜とボートが浮かぶ水面、
ボートに乗っている人たちだけが間近に見ることのできる桜の簾はどんな感じだろう、、、
などとあれこれ想像しながらボートに乗る人々を観察していたとき、突如として一陣の風が起こった。
風は一瞬だが勢いよく吹き、あたりには猛烈な桜吹雪が舞った。
春の突風が吹きつける花びらが、頬にあたって痛いと感じたくらいで、
それが驚くほど新鮮な刺激となって体を通り抜け、そこにいた誰もが桜吹雪に歓声をあげた瞬間だった。
自然を体感することで得られる幸福感は、こんなふうに突然やってくることもある。


思わぬ風の演出にボートを漕ぐ手がとまり、桜吹雪に見とれる(画像が小さくて舞う花びらが見えにくいですが、、)



                          


緑道の端から端へと歩いて北の丸公園まで来た。
武道館では明治大学の入学式が行われていた。
満開に咲き誇るさくらのもとで迎えた入学式、さぞ想い出深きものになるだろう。


北の丸公園前の歩道橋を渡ったところが靖国神社なので、ここへも寄ることにする。
神社の大鳥居をくぐると、露店が軒を並べ、おいしそうな匂いを漂わせている。
露店のひとつへ入り、お好み焼きと缶ビールでひとり花見宴会
これも小さなシアワセ。。。

      
金色に輝く菊のご紋がついた立派な扉              拝殿                        神社とて商魂たくましい

靖国神社といえば、東京の桜開花を観測する標準木があることで知られている。
この標準木に5〜6輪の花が咲くと、気象台から桜開花が発表される。
「靖国の桜」、さくらと神社の縁は古く、明治3年に木戸孝允によってソメイヨシノが植えられたのが始まりで、
いまではその染井吉野に、山桜、寒桜、富士桜、緋寒桜、枝垂れ桜、ウコン桜など600本が植えられている。


参道に咲くさくらの下では花見の宴が盛んで、古来より伝わる日本のよき文化風習である花見は
いまも衰えることなく人々のささやかな楽しみとなって残っている。
素晴らしいことだと思う。

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