釈迦ヶ岳 (1641m)


釈迦ヶ岳と名のつく山は全国に11もあるそうで、山梨県には4つあって、
そのうち一つは「釈迦ヶ岳と地蔵峠の大栂」に記した、市川三郷町と甲府市の境にある。
今回のぼる山は、笛吹市の御坂山塊にある釈迦ヶ岳で、
こちらの釈迦ヶ岳は、見晴らしのよい山頂に、二体のお地蔵様があることでも知られている。


   甲斐人の嫁にはならじ 事辛じ 甲斐の御坂を夜や越ゆらむ

(甲斐の国には嫁にはゆかぬ、何かと暮らしがきびしいらしい。甲斐の御坂を越えようとすれば、もう夜になってしまうのだから。)

平安時代に詠まれた歌からも、このあたり、山奥の暮らしの厳しさが想像できる。

山中湖から河口湖大橋を渡って「御坂みち」137号線に出る。三ツ峠登山口へ入る道を右に見送って、さらに進むとトンネルになる。
御坂トンネルは、けっこう長いトンネルだった。御坂を超えて甲府に出る、歌に詠まれた昔の大変さがわかるような気がした。

地図では、トンネルを出てすこし行った先で左に入る林道があるのだが、標識もなく入り口がわからない。
このまえのように行き過ぎて甲府へ出てしまわぬうちに確認しようと、道路の反対側にぽつんと一軒あった店へと
クルマをUターンさせ、訊いてみることにした。
薄暗い店内に向かって「ごめんくださ〜い、すみません」と声をかけると、
中から出てきたのは小太りのおばちゃんで、やれやれといった感じで道を教えてくれた。
たぶん、この店で道を尋ねる人が多いのではないかと思う。

案の定、林道の入り口は店の真向いにあって、やはり道路標識はなかった。
ガードレールの切れ目から坂道をのぼっていく。いつものことだが、初めての林道は緊張がともなう。
この林道をたどり、「どんべえ峠」と呼ばれる「日向坂峠」へと向かう。
小枝や岩のかけらが散らばっているのでノロノロ走る。林道の制限速度は、いちおう20km。
途中に岩が転がっていたり、穴ボコがあいていないようにと、祈るようにドキドキしながらいくので心臓によくない。
最初は道幅も狭く、対向車が来たときの回避場所さえなかった林道も、高度を上げていくうちに道幅はひろがり、路面の状態もよくなってきた。
ふぅ〜よかった〜

ときおり木々の合間から見える景色は山々が連なり、だいぶ上がってきたぞと思ったところで、
ひらりひらりと優雅に飛ぶアサギマダラを見つけた! 大好きな蝶!
急ぎクルマのエンジンを切ってカメラを取り出す。

アサギマダラはどこへも行かずちゃんと待っててくれて、ふわりふわり、葉から葉へと飛びつづけている。
ちょっと角度がイマイチだけど、一枚、また一枚、シャッターを切る。

      

エレガントに飛ぶ姿といい、翅の色やデザインといい、長い距離を飛んで旅する蝶には思えない。
光に透けて見える浅葱色の翅が美しい。

      

きょうのアサギマダラは翅を閉じてとまるので、翅をひろげた姿はこの一枚だけ、それも一瞬だった。(ブレてしまった
そして、空高く舞い上がっていったアサギマダラを見送り、どんべえ峠へと、またクルマを走らせた。

                                   

ゆるいコーナーを曲がったところで、何台かのクルマが停まっている場所に来た。

    

どうやらここが「どんべえ峠」らしい。
クルマをとめて確認してみると、釈迦ヶ岳と黒岳の登山口道標があり、日向坂峠と書かれていた。

さあ、釈迦ヶ岳へ出発〜
どんべえ峠ですでに標高1400mはありそうなので、山頂まではわずか1時間。ラク〜
ところで、「どんべえ峠」というユニークな呼び名、その昔に鈍兵衛さんという人がいたのかなと調べてみたが、
云われについての記述は見当たらなかった。

      

どんべえ峠からはすぐに尾根道になり、クヌギやコナラの若葉が繁る明るい雑木林のなかを歩いていく。
ハルゼミの鳴き声が響き渡り、浅緑色の葉があたりいっぱいに輝く森は、フレッシュな気分このうえなく、とても気持ちがいい!

        

足元には、ハート型の葉っぱのマイズルソウ、ヤナギバギンラン、シロバナノヘビイチゴ、チゴユリなど、白くて小さな森の花がたくさん咲いている。




      

雑木林の尾根道を、軽くアップダウンを繰り返しながら進んでいくと、大きな露岩の狭い道は急傾斜となり、綱引きに使うような太いロープが垂れ下っている。

      

ロープにつかまらなくても登れるが、こういった安全への配慮はありがたい。このような岩場を3ヶ所通過すると、山頂は近い。

      ヤマツツジ

山頂へあと一登りというところから富士山が見えた。  




      

釈迦ヶ岳山頂に到着!
おおっ!というような素晴らしい展望が広がる。周囲360度が見渡せる大展望だ。

    

そして、山頂の一角に鎮座している釈迦ヶ岳のシンボル、お地蔵さま。夫婦地蔵と言われているが、そうなのかなぁ?
見たところ、親子地蔵のように見える。
いまから20年前に書かれた田中澄江さんの本に、このお地蔵さまのことが出てくるが、それには
『石の質のもろいせいか、ただ顔らしい、からだらしい線がのこされているだけである』
と記述されているので、いまここにあるお地蔵さまは、新しく置き換えられたものだろう、一体の大きい方は顔もはっきりしている。

お地蔵さまの真後ろには、富士がデンと大きく、その右には白い嶺の南アルプスが霞んで見えている。
また、山頂にはオレンジ色のヤマツツジやピンクのトウゴクミツバツツジがたくさんあって、ヤマツツジはちょうど花の時期を迎え、まだ蕾もいっぱいあった。
ツツジが花盛りとなった山頂には、カラスアゲハ、キアゲハなど大型蝶やシジミやセセリなど、ツツジの甘い蜜を求めて飛んできている。
カラスアゲハをなんとか写真に撮りたいと思うに、アゲハはびゅんびゅんのスピードで飛びまわり、花にとまってくれない。
ま、とまったとしても、大岩がゴロゴロしている山頂なので、思うように動くことができないのだけど、、。

それでも、すぐ目の前のヤマツツジにとまったキアゲハを、すかさず狙ってみた。
ほんの一瞬だったけど、キアゲハをワンカット撮ることができた。




  ずっとぐずつき気味だった天気がようやく回復して、やっと晴れた今日は貴重な晴天日、
  そのせいか平日にもかかわらず登山者がいつもより多い。
  私にしてみれば、きょうは週末か?というような人出である。
  山頂には一ダースほどのハイカーが集まり、いつもと違い賑やかで、そのせいかなんとなく落ち着かない。
  そのうちひと休みした皆さんは次々下山していき、残るは私をいれて3人となった。
  次の予定があるから、そろそろ下山にかからねばだけど、あまりに気持ちのいい山頂なので去りがたい。

  天気のいい日にまた来るからね! お地蔵さまにそう約束して、重い腰をあげた。
  来た道をもどり、「すずらん群生地」とある道標のところで、どうしようかと考えた。
  次の予定とは、このすずらん群生地なのだが、このまま群生地へと向かうと、またここを戻ってこなくてはならない。
  考えていたのは、いったんどんべえ峠に戻り、クルマで群生地へ向かい、
  そのまま芦川村から精進ブルーラインにぬけようと思っていた。




でもまあ、きょうはたいして歩いてないから、戻ってきてもいいか、そう思って坂道を下っていったのだが、、、
この坂道は延々と群生地までつづいているらしく、ここをまた登り返すのも大変そうだし、時間に余裕がなくなるのもなんだしと、
途中で思いなおして、やはりどんべえ峠に戻ることにした。
下った坂をのぼりながら、やっぱだめだなこりゃ、、、戻るが正解、などと独り言をつぶやきつつひょいと森を見たとき、
白い花が咲いているのを見つけた。来るときには気づかなかった花だ。

山の斜面に分け入り近づいてみると、山頂への登山道わきに一輪あった白いつぼみ見て、何の花だろうと思ったものだ。
それがここでは綺麗に咲いている! 写真を撮って、ほかに目を移すと、あっちにもこっちにも咲いているじゃない!
しばし花の虜となって過ごす♪♪

   

花の名はクサタチバナ(草橘)。ぷくんと膨らんだつぼみがかわいい花。
森の中に咲く花は、白い花がとても多い。それがまたいいんだけど。。。

  そうそう、コレなんでしょう?
葉っぱの上にのっていた翅のようなもの? キラキラ淡い金色に輝いていました。

こうして釈迦ヶ岳から、スズランが自生しているという森へ向かいます。 すずらん群生地のページへクリックしてね。


                               

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