サンショウバラ咲く山へ (明神峠〜湯船山〜世附峠)

昨年の秋、不老山へ登ったときに出会ったいくつもの印象的な手書きの道標、
そこには初夏に咲く美しい花サンショウバラが描かれていて、ぜひ見たいと思いました。
道標の作者・岩田さんも、この山に自生するサンショウバラを絶賛していて、
花の咲く5月下旬〜6月上旬に、また登ってきてくださいと書いてありました。

サンショウバラは、富士箱根地方特有の木で、葉が山椒に似ていることから名前が付きました。
別名ハコネバラ(箱根薔薇)とも呼ばれ箱根町の花にもなっています。
サンショウバラは、朝に花開くと夕方には散ってしまう一日花で、花期も短く、咲く時期に出会うタイミングが難しい花でもあります。

さて今年は全般的に花の開花が早く、サンショウバラも例年より早く開花するのではと考え、
花の時期には少し早いと思われるが、とりあえずダメモトで登ってみることにして、
コースも昨年の浅瀬から不老山ではなく、明神峠から世附峠へ向かうことにしました。

駿河小山の町を通り抜け、山中湖方面に向かって峠道を進みます。
明神峠はどこだろうと目で探しながら行くも、そのような場所らしきものがありません。
そのうち登山道と道標があったのでクルマをとめてみると、ここは不老山から三国山稜へとつづくハイキングコースの途中でした。

   

道路沿いに咲いたいたヤマウツギ 左奥が三国山への登山ルート

けど困ったことに駐車スペースといったものがなく、不老山側の登山道にクルマ一台置ける広さがあったので、
平日でもあり、登山者も少ないと考え、ここにクルマを置くことにしました。
手描きの道標もあったので読んでみると、明神峠はここより1.4km先とあります。なんと通り越してきてしまったのです。
道路左右を確認しながらゆっくり走ってきたつもりだけど、どうやら見落としたらしい。
戻ろうかと思ったけど、駐車スペースはたしか見当たらなかったので、ここから歩くことにしました。
標識には、明神峠まで17分とあります。



   

森の中を緩やかに下っていくと明神峠・900mに出ました。
これといって目立つものもない峠で、駐車スペースもまったくなく、これでは見落とすはずです。
岩田さんの道標には、こう書かれていました。

 本コースは1.4km先で、車道と交差します。そこが三国山登山口です。三国山に登りて三国峠に下るも可。
 さらに縦走を続けて篭坂峠に至るも可です。快適な尾根です。車道が拡幅されていくのは分ります。
 だが、要は、ハイキングコースへの気配りです。この辺は、ハイカーへの優しい心づかいが全く見られません。
 ハイカーへの細やかな配慮に欠けています。

おっしゃるとおりだと思いました。
ここへはバスの便もなく、マイカーで来ても停めるところがありません。

湯船山まで2km、世附(よづく)峠まで6kmとある道標の横を上がっていくと、ベンチが置かれ、その脇にサンショウバラがありました。
けれど、花はまだ咲いていなくて蕾の状態です。
ああ、やっぱりまだ早かったか、、、とちょっと気落ちしましたが、お天気も上々、たのしい山歩きができればいいさと歩きだします。

山道はずっと森の中へとつづいています。
林床に咲いているのはフタリシズカ。いまや森の主役で、たくさん咲いています。

  
穂に見る小さな白い花には、花弁も萼もなく、3個の雄しべが丸まって子房を抱いている。

ヒトリシズカも地味な花ですが、フタリシズカはさらに目立たない花で、
4枚の葉の中心からでる花穂を、静御前とその亡霊たちが舞う姿にたとえて名前がついたとの説があります。
穂の数は2本に限らず、1本のや多いものでは4本のがありました。

 湯船山の山頂 1041m

明神峠から45分ほどで湯船山に着きました。こんもりとした樹林に囲まれた山頂で、展望はありません。
ここで単独行の男性に会いました。このかたはこの付近の山を取材しているライターで、小田原在住ということでした。
しばしお喋りをして、西丹沢に咲く三つの代表的な花は、「サンショウバラ」「シロヤシオ」「ミツマタ」とうかがい、
ミツマタ咲くミツバ岳の記事をこの春に取材して「山と渓谷」に寄稿されたそうで、来春は是非にと勧めていただきました。
私も来年はミツバ岳に登ってみたいと思っていたので、詳しくおしえていただきました。

そしてそして、サンショウバラのことを訊いてみると、
「この先にたくさん咲いていますよ、いい時期に来られてよかったですね」と。
わーい、やった〜〜! うれしくなると同時に、花に会える楽しさがフツフツと湧きあがってきます

   

湯船山のあたりからブナがたくさん見られるようになります。
太い幹のカンロクあるブナも何本もあって、立ち止まってはブナを見上げ、幹に触れたりしながら山道をいきます。

   

また、岩田さんの道標を見るのも楽しく、そして励まされます。

    

森にはたえず、ひんやりした心地いい風が木々の間を通り抜けていくので、涼しく快適に歩けます。

    白ーノ頭(しろくらのあたま)978m
餌を銜えてキョロキョロしていたシジュウカラ



  緩やかにアップダウンを繰り返しながら進んでいくと急下降する場所に出ましたが、
  道にはステップが切ってあり、両側にロープも張られていて、安全に下ることができます。
  登山道を整備されているのは、地元有志のかただと聞いています。ありがたいことです。


     急坂を下ると平らな山道になって、大きな木にポツンとあるピンクの花が目に入りました。

サンショウバラです!

    

  
駆け寄っていって花を見て、写真を撮ります。
よく見るとこのあたり何本かのサンショウバラの木があって、どれも花をつけています。
また、もう咲き終わった花も多くありました。
サンショウバラの花色は、薄いピンクと濃いものとがあり、一重の花は野に咲くバラのシンプルな美しさがあります。



    


蝶や虫が花にたくさん集まってきていて、黒揚羽は花から花へと勢いよく飛び、
ヤマキマダラヒカケは、私の周りをグルグルとしつこいくらいに飛びまわります。
さらに、今年お初のアサギマダラに出会いました!
私の大好きなチョウ、アサギマダラ。ふわりふわりと優雅に飛ぶ姿も美しい蝶です。
森の奥へと飛んでいってしまい、残念ながら写真は撮れませんでした。


ここからちょっといった先が蘇峰台で、岩田さんの呼び名では「樹下の二人」です。
大きく開けたカヤトの原が広がり、中央にはマユミの木があって、
今日のような好天時にはマユミがベンチにちょうどいい日陰をつくってくれます。
周辺にはサンショウバラが何本もあり、なかでも大きな株は花をたくさんつけ、まさに見頃でした。

     
サンショウバラの大きな株 樹高4m近くあります。



     
麗しのサンショウバラ、岩田さんの道標に描かれていたとおり、素敵な花でした。 綺麗に咲いたサンショウバラに会えて、もうもうゴキゲン!




たっぷり花を鑑賞したあとは、「樹下の二人」のベンチに腰かけ大休止。

    
広々として居心地がよく、マユミの木の下にはベンチが置かれ、左前方には不老山が見え、右にはサンショウバラごしに湯船山、そして富士山も見えます。

樹下の二人(蘇峰台・740m)から7分ほど下ると世附(よづく)峠です。さらに45分歩くと不老山(928m)です。
不老山にもサンショウバラが見られますが、不老山からいらした登山者によると山頂のサンショウバラはまだ蕾で、まったく咲いていないとのことでした。
花目当ての私は、明神峠から登って正解でした。 気持のいい樹下の二人でのんびり過ごし、歩いてきた道を戻ります。




                  

登山道に沿って新しい林道がつくられていたので、それをたどってみましたが、まだ途中までしかできていません。

ずっと樹林の中をいくコースなので花はあまり見られなくて、花といえばひなたに咲いていた黄色い花、ジシバリウマノアシガタくらいでした。
以前はヤマシャクヤクやホテイランなども咲いていたようですが、盗掘によって花が消えてしまったようです。
岩田さんもそれを嘆いておられ、道標には植物はじめ自然愛護をと呼びかけていました。
野山に咲く花は誰のものでもない、みんなのもの。シェアして喜ぶ心を持ちたいものです。

サンショウバラも絶滅が危惧される花のひとつです。いつまでもこの地に咲き続けていられるよう願うばかりです。

ブナの森を歩いてサンショウバラに出会える山、静かな山歩きができたいい山でした。

サンショウバラを知るきっかけとなった山、不老山のレポはコチラをクリックしてごらんください。

                                         

                                  

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