山の団十郎/甲斐駒ヶ岳

山梨県の西にデンと聳える花崗岩の白砂におおわれたピラミダルな山・甲斐駒ヶ岳(標高2967m)は、
その美しさといい姿のよさといい、眺めるたびに、いつか登ってみたいと憧れていた山だ。

今年は夏の前半が天候不順で、山の予定が組めず、やっと夏らしい陽射しが戻ったお盆過ぎに小屋へ予約の電話をすると、
平日でもいっぱいとの返事で予約が取れなかった。
山小屋もいまや予約制のところが増えてきて、ここ北沢峠にある小屋はどこも予約が要るらしい。

9月に入ると連日のように天気がいい。
再び仙水小屋に電話を入れてみると、こんどは予約が取れた。
仙水小屋は北沢峠から山道を40分ほど登った森の中のにある山小屋で、この小屋は食事が美味しいと定評がある。
前日この小屋に泊って山頂を目指せば、翌日は時間が短縮でき、仙水峠でご来光を眺めてから登るのも可能だ。
まあ誰しも同じような思いでいるらしく、行ってみると、日曜の晩にもかかわらず小屋は満員だった。


甲斐駒へは尾白川流れる駒ヶ岳神社から黒戸尾根コースでも登れる。こちらは昔からのコースで、標高差2000mのハードコースだがそれに対し、
北沢峠からは標高2030mの地点が登山口となるらくちんコースなのだが、それでも標高差1000m近くを一日で登り下りするのは疲れ、
翌日は久しぶりに全身筋肉痛となった今回の登山だった。

                               


朝8時に横浜を出発、中央道を双葉JCから白根ICへと走り芦安に向かった。
マイカー規制のため芦安市営駐車場にクルマをとめて、バスを2台乗り継いで北沢峠へ向かう。


  駐車場に着いてみると、各駐車場は次々「満車」の看板、、、
  うわっ!夏も終わったというのに、こんなに登山者がいるのかとあらためてびっくり。
  そこへ乗合タクシーの運ちゃんが、ここが一台空いてますよと声をかけてくれた。ありがたい。
  駐車場から広河原まではバスと乗合タクシーの両方があって、運賃はタクシーの方がバスより100円高いだけ。
  ここはバスを待つより、親切な運ちゃんのタクシーでゆったりと広河原に向かうことにした。

  タクシーは8人乗りで、私の他にはもう一人、埼玉から来たという初老の男性が乗った。

     真っ暗で長いトンネルの幅はほぼ車一台分

バスは、南アルプススーパー林道と名付けられた細い道をいくつものトンネルを抜けながらクネクネと進む。
林道沿いの山肌には、秋の花が顔をのぞかせている。

    
13時、広河原に到着。懐かしい北岳への登山口だ。         ぐんぐん標高を上げて進むバスから甲斐駒の白い頂が見えた。

タクシーはは50分後に広河原に到着。ここでバスに乗り替え、さらに25分かけて北沢峠へ向かう。
日曜日なので臨時バスが出て、北沢峠到着が予定より1時間早くなった。

バスに揺られながら初老の男性とあれこれ山の話をしていたなかで、トムラウシの遭難に話がおよぶと
「あれは無謀ですね」と男性が言ったので、私はガイドに頼ることなく自分の器量に合った山に登るべきといい、
また日頃から山に対しての備えも十分にしておかなくてはなどと言いつつ、その人に今年はどのくらい登っていますかと尋ねたら、
なんと今年は今回が初めての山だと言うのだ。
「甲斐駒ならなんとか登れるんじゃないかと思ってね」と言ったので、私は正直「えっ」と思った。
そりゃ日帰りも可能な山ではあるけど、それでも標高3000m近くある山なんだし、若さと体力があればナントカなっても、
トシがいっててさらに今年初めての山歩きにしては、それこそちょっと無謀じゃないかと思うのだが、どうなんだろう・・・
このかた、甲斐駒は初めてだけど、南アルプスの山はこれまでいくつか登っていて、それで自信があるらしい。

今夜泊る山小屋はどこに予約しているのですかと聞いたら、予約はしてないと言う。
「一人くらいならナントカなるでしょう」と言うので、これまたオドロキ。
たしかに混雑する時期ではないが、北沢峠の山小屋はどこも予約制のはずだ。
私もアバウトな性格ではあるが、こんな山奥で勝負する気にはなれないし、もしも断られたらどうするのか、、。

北沢峠から仙水小屋まで、沢沿いの山道を歩いて45分くらい。15時、仙水小屋到着。
小屋の入口はロープで仕切られ、ロープには「予約の方以外立ち入り禁止」と書かれた札が下がっていた。
タクシーで一緒だった男性は私よりひと足先に着いて、所在なさそうにベンチで休んでいた。
「予約してないので断られました」そうひとこと私に囁くと、急いで来た道を下っていった。
なんとまぁ気の毒な、、、とはいえ仕方ないことだけど、北沢峠の小屋には泊ることができただろうか。
翌日、甲斐駒を登りながらそれらしき人はいないかと探したけれど、ついに見かけることはなかった。

    
樹林に囲まれた仙水小屋                         小屋前には冷たくておいしい水がとうとうと流れている

この日泊った人の一人は、前日小屋に予約を入れたところ、すでに満員だけど一人くらいはなんとかしましょうといって予約できたという話から、
小屋は定員オーバーで、予約なしでは断られても仕方ない状況だった。
仙水小屋は昔から予約制に徹してきて、それがあってこそ山小屋とは思えない美味しい食事を提供している。

  

   

  仙水小屋の夕食は16時30分開始。
  丁寧に手作りされた料理が彩りよく盛り付けられ味もいい。
  しかもこんな山奥で刺身まで添えられている。


  

マグロは小屋主さんのおろしてさばいたもの。
  ご飯はお替り自由、味噌汁も具がたくさん入って美味しかった。
  いつもなら見ただけで食欲も萎える山小屋の食事で、毎度食べれずにいたが
  ここの夕飯は美味しく、山小屋の食事でははじめて完食できた。
  これだけの食事を出して一泊二食で6500円というのは
  どこの山小屋より安く、オーナーの人柄を思わせるものだ。
  ずいぶんと元気をもらえた食事だった。

2000mを越す高さにある仙水小屋は、じっとしているとけっこう冷えてきて寒い。
食事は外のベンチだったので、私は一番に席について陽のあたる場所を確保
登山者の皆さん長袖を着こんで、口々に寒いですね〜と言い合うなかで、オーナーの方はランニングシャツ一枚という鍛えられたカラダはさすが!
寒くないですか?ときかれて、「いまから着こんでいたら、冬には雪ダルマのように着ぶくれするようになってしまう」と笑っておられた。
通年営業の小屋とあって、真冬の厳しい寒さに耐えていくには、これくらいで寒いと感じていてはイケナイのだ。

  

それでもオーナーさんによると、今年秋の訪れはいつもより半月はやいそうです。


   

小屋前ではハハコグサが花盛り。
夕食を終えると何もすることがなくなり、18時には早々と布団にもぐりこみ、ウトウトしながら夜が明けるのを待った。


                                                

 
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