釈迦ヶ岳と地蔵峠の大栂


釈迦ヶ岳とついた山名は全国にあって、いずれも信仰登山の対象からきているという。
そのうち山梨県には4つの釈迦ヶ岳があるそうだが、私が知っているのは御坂山塊の北にあるのと、
もうひとつ、蛾ヶ岳から三方分山を経て精進湖にいたる稜線にある二つで、今回のレポは後者の釈迦ヶ岳です。

御坂山塊の釈迦ヶ岳にくらべて地味で人気のないのこの釈迦ヶ岳、いったいどんな山なのでしょう。

釈迦ヶ岳への最短登山口は、上九一色村の古関(ふるせき)と旧下部町の八坂(はっさか)地区を結ぶ林道、
折八古関線の最高地点にあって、起点の古関からは5kmです。
このあたり、とても山深いところですが、そこは山梨県、道路整備が行き届いていて、林道も舗装化が進んでいます。
折八古関線も全面舗装され、私のクルマでも走れそうなので行ってみることにしました。


東名・御殿場ICから山中湖へ向けて走っていくと、冬に三国山稜を歩いた籠坂峠のあたりからフジザクラが道の両側に咲いて
山中湖ではいまがちょうど桜の見頃を迎えています。湖岸に咲く桜がとても綺麗!
さらに山間をぬけて走る精進湖ブルーラインになると、道の両側に迫る山肌は、芽吹いたばかりの淡い緑です。

郵便局と小学校を目印に林道へ入るのですが、入り口を見逃し、甲府まで行ってしまいUターン
戻ってやっと見つけた郵便局、あのオレンジ色の看板に〒のマークを頭に描いていたのですが、これが間違い、
山奥のこともあって、郵便局といっても赤いポストが一軒家の前にポツンとあるだけでした。

ここを入っていったものの、道は四方にあって、また?マーク。
どっちへいったものかと思いあぐねているところへ、軽トラが通りかかったので訊いてみると、
軽トラのおじさんは、親切にも車からおりてきて丁寧におしえてくださいました。感謝!

なんだかんだでいつものごとくタイムロス40分。
さあ、こっからが緊張の林道走行、はたして無事に走れるのか???
というのも、四駆からいまのクルマに変えてから、林道ではいろいろと危なっかしい場面が数あったので、それがトラウマに、、、

折八古関線は全面舗装化されているというものの、クリスタルラインのようなワケにはいきません。
路面には落石や(小石や岩の破片)小枝がぱらぱら撒かれていて、ブィーンとアクセル踏みこんじゃダメダメ(私のクルマはね)
どうぞ無事通過できますようにと祈りながら、自転車の速度でヨッコラヨッコラ高度を上げていったのでゴザイマス
そんなわけで景色を眺める心の余裕もないまま、登山口のある新八坂峠に着いたときは、やれやれ、ほっ、、でした。

 車一台置ける崖の膨らみに落ちないように注意しつつ駐車


   
ここからの眺めはすばらしい! 残雪の南アルプスや八ヶ岳の峰々がズラリ

朽ちかかっているハシゴ              

林道が山を横切っているので、釈迦ヶ岳への登り口には梯子がかけてあるのですが、
真ん中の段が折れていて、他の段も朽ちかかっています。また、ここから林道を突っ切って下っていくと八坂峠から蛾ヶ岳へ
行かれるとあったので、行ってみましたが、道が不明瞭で道標もなかったので戻りました。



  
葉がでるまえに花が咲くアケボノスミレ                三方分山からのコースに合流 左へたどると山頂

さて、釈迦ヶ岳まで40分と書いてあります。
梯子を上りきった急傾斜にはロープがたれているので、それを掴んでエッサカ登ります。
そのあとはなだらかな山道となり、林床にはスミレが咲いてお出迎え。
タチツボスミレの他にはアケボノスミレがやたら多い。
スミレの写真を撮りながら歩いていたら、あっけなく山頂に到着。

    

これといって特徴のないピークに、釈迦ヶ岳・1271mと書かれた杭がポツンとあるだけのサエナイ山頂です。
展望も木々が邪魔していて、富士山と登山口で見た景色がチラリと見えるくらい。
ひと休みして来た道を戻ります。





   
地蔵峠への入口                         製の古びた登山ポストがあった        木の根元にはお地蔵さま ヤブレガサもちょこんと

林道をさらに進み、大きなツガのあるという地蔵峠に向かいます。
地蔵峠(現在の表記は栂峠)への入り口には、古びた登山ポスト?があり、峠まで40分とあります。
ここからは緩やかな山道がつづき、左手には周囲の山々が折り重なるように連なっているのが見え、
ほんとうに山深いところだなぁと思いました。

      

人っ子一人いない山奥で、鳥たちの歌声だけがよく響きます。
眩しいくらい春の陽射しがふりそそいでいたので気持ちよく歩けましたが、
そうじゃなかったら、ひとり歩くには寂しい思いがしたでしょう。

      

道にはイカリソウが絶え間なく咲いていて、そのどれもがみな小粒の花でした。

    
西日本で多く見られ、四国・九州ではこれしかないところも                               桜の花びらに似ているかわいい花ワダソウ

陽射しが強烈で痛いくらいの陽当たりのいい道には、シロバナタンポポミツバツチグリワダソウなどなど
野の花が道いっぱいに咲いて楽しませてくれます。




    

道は、落葉樹と針葉樹の境にあって、明暗の境界を歩くことになります。木々の間から見える景色は山また山、、、

細い山道から急に先が開けたと思ったら、地蔵峠でした。

      
地蔵峠(立札は栂の峠となっている)                  アカネスミレ                   花の色が美しいアケボノスミレ

とても雰囲気のいい峠で、足元にはスミレがいっぱい!

  

そして、峠には見上げるほどに大きく立派なツガの木が1本あります。
かなり後ろに下がって撮影しないと木全体が収まらないくらい、とても大きなツガです。

案内板によると、この峠は「つがん峠」と呼ばれ、折八区折門沢地と甲府方面を結ぶ重要な生活道の峠でした。
樹齢500年と推定される大ツガは、遠く甲府の町からも見えるほどで、土地の人たちからシンボルとして親しまれてきました。

土地条件の厳しいこの自然環境の中で自生し、樹高16.3m・根元周囲4.08m・幹囲3.26m・枝張り10mにもおよぶ大木は、
樹勢の衰えもなくいまも元気旺盛で、県下でもまれにみる巨木となっています

 いまやお地蔵様の顔はなく・・・

ツガの根元にはお地蔵様が置かれています。
山深いこの地で暮す人々にとって重要な峠であったことがわかります。
ここを行き来する人たちは、大栂を目印に山道を歩き、お地蔵様に道中の無事を祈って手を合わせ、
誰もがこの場所で一息ついたことでしょう。

そしてツガの木は、500年もの長きにわたり、峠を越す人たちを無言のうちに見守り、また励ましてきたのだと思います。

  私も地蔵峠で一息どころか、だいぶのんびりと過ごしました。
  誰一人としてやってくる気配さえないここが、
  昔は山暮らしの人たちがよく通った場所だというのが
  信じられないくらいひっそりとしたところです。

  そこへ黄色い蝶(スジボソヤマキチョウだと思いますが)がひらひらと飛んできました。
  それっと追いかけて、アケボノスミレの蜜を吸うところをなんとかカメラに収めました。
  アクロバッテイングな姿勢であっちの花こっちの花と吸蜜に忙しく飛び移ります。

  その姿をアップで見てみると、
  美しい翅のあちこちが破れ、ボロボロの状態です。
  人間もそうだけど、蝶の世界だって厳しいことに変わりはない、
  それでも精一杯生きる姿になんか胸が熱くなります。


この山域には限界集落となっているところが数あります。
このように山深い地で暮してきた人々、その生活はどんなものだったのでしょう。
いまの暮らしからすると、考えられないくらい厳しいものだったと思いますが、その暮らしぶりを
想像することもできないくらい時代は進んでしまいました。
いま歩いてきた山道が生活の道だったと知って、ただ驚くばかりです。

山の斜面にへばりつくようにぽつんとある民家や、すでに廃屋となった住居や集落を見かけるたび、
時代とともに失われゆくもの、そのことに一抹の寂しさを感じてしまいます。




    

地蔵峠から蛾ヶ岳へと雑木林の中へ山道がつづいていて、折門峠まででもと行きかけたのですが、
やっぱり引き返して下山することにしました。
クルマの置いてあるところへと戻った時刻は14時、帰りに余裕がもてるいい時間です。

帰りは林道の状態もわかっているのでスイスイ走れて
わぉ、マメザクラがこんなに咲いていたんだ、とか、山肌の新緑はこれからが本番ね、などと、
余裕で下っていきました

きょうも、たのしい山歩きができました、、

                                 
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